【コラム】北鎌尾根1day Fast Alpine 2014,summer vol.1/2

(以下は、ドキュウ!に掲載したものを転載したものです)

 

ゆうじんと申します。
北アルプス山麓の山岳都市松本にて、山のWEB-TVで発信したりしつつ、家からほど近い北アを中心とした魅惑の山々に、春夏秋冬引きずりこまれてます(笑)

冬春は軽量山岳スキー×自転車×トレイルランニングシューズ、夏秋はトレイルランニングシューズ×沢靴×ロープ×自転車など、MIXした1DAYスピード登山をただいま模索しつつ楽しんでいるところです。

今回ご紹介する槍ヶ岳の北鎌尾根をふくめたこの登山は、一言でいうと、スカイランニングとクライミング(初級といわれている)とのミクスチュアです。

要するに、一般登山道にくらべて難易度が高く時間を要する、岩稜のバリエーションルートに、走れるところは走るライト&ファストスタイルをMIXすることで、通常重荷を背負って1泊や2泊で行くあの北鎌尾根からの槍ヶ岳を、1DAYでやってしまうということです。

登山をやらない方には、今回は北鎌尾根のバリエーションルート(登山道のないルート)がメインの山行でもあるので少々取っつきにくいところはあると思います。

それを踏まえたうえで、スカイライニングやトレイルランニングを通して山と出会い、さらにこれから山を楽しむという方たちへ、すこしでも山のルールやマナーふくめたアクティビティとして参考になるならと、ご紹介しようという試みです!

(Top of Mt.Yari at 1200)

【憧れの北鎌尾根からの槍ヶ岳】

2012年の夏だっただろうか。
周囲の野営しながら2~3日かけてのいわゆる北鎌尾根山行を聞くにつけ見るにつけ、「ならば、1DAYソロでいつかチャレンジしてみたい…」と、思い描いてきた遠からずも近からずといったすこしチャレンジングな登山計画。

周囲に言うと「またまた~」と揶揄され、”1DAY×軽く速く×北鎌尾根”という珍しい掛け合わせに、非現実感のある計画だと実感した。

しかしながらそんな思いつきからどんどん現実化していくのがとても面白い。

山岳シミュレーションソフトのカシミール3Dに考案したルートを落としてみる。

この登山がいわゆるトレイルランニングなどと違うところは、バリエーションといって登山道のないルートを、自らのルートファインディングを頼りにすすむエリアが含まれているところだ。

岩稜帯なので基本的なクライミング技術も必要で、一言でいえば体力だけではカバーできない点にある。

ま、そこが魅力ゆえに挑戦したくなるってもの。

ルート作成にあたっては、5つのアプローチがまず浮かぶ。

基点は、上高地・新穂高・七倉から湯俣・三股、そして中房である。

まず上高地からの北鎌尾根はすでにネットで記録を確認したのと、新穂高にならび体力的にハードルはやや低い。
また、湯俣からは体力的には問題ないが、天上沢の渡渉や沢歩きといったやや専門的な要素が加わる。

残るは二つ。三股からは、もちろん北鎌尾根ではないが、表銀座からのアプローチで槍ヶ岳へ登り、槍沢から蝶ヶ岳へとつないで三股へ戻る会心の1DAYラウンドルートをすでにやっていた。

ということで、一部表銀座が往復で重複するが、中房からのラウンドが最有力。

バリエーションは初めてでしかもソロではあったが、石橋を叩いていくタイプでもあるまいし、と三股と同等の体力的にもすこしチャレンジングなこのルートに決定したのだ。

ひょっとすると、このルートでの北鎌尾根1DAYは最初なんじゃないか?
という意識がとても大事だった。

こういったものは、コロンブスの卵じゃないけど、すでに同ルートを誰かがやったという前例があるだけで、精神的なハードルが相当下がるというもの。

なので、ネットでは検索の深追いはしなかった(笑)

余談だが、山行後、同ルートふくめて、さらに長い北鎌尾根もやったというTJARも完走しているM氏から、激励のメールをいただき友達になった。

彼もソロだ。一人の登山をやる人間としてとても尊敬している。

【コース概略と準備】

このルート(北鎌尾根1DAYスピード登山)をざっくり紹介してみよう。

距離約34㎞、累積標高差は、±4,000m。

中房温泉から燕山荘までまず1,000m強を登り、表銀座のアップダウンを可能なところは走る。

標高を除けば、ざっと国内のトレイル&スカイランニング系のレースでも珍しくないコースプロフィールだろうか。

ただここからが違う。

大天井ヒュッテ先の貧乏沢入口からはいよいよバリエーションルートだ。
ここまで距離にして約10㎞。

槍ヶ岳山頂までは登山道のない約6㎞の距離を、800m下って渡渉をこなし1,400m登り返す。

そして、この後の東鎌尾根も含めこのセクションはほとんどが早歩きと登攀(岩登り)である。

バリエーションエリアでは、これにルートファインディングが加わる。

端的にいうと、中間のバリエーションセクション以外は、スカイランニングモードで、3,000m級の空にもっとも近い稜線を満喫できる。

歩く走るよじ登るに、道筋をつけることまでそろったMIXスピード登山だ。

さて、北鎌尾根は、「孤高の人」の加藤文太郎や「風雪のビバーク」の松濤明に代表される厳冬期の壮絶な遭難死はいまや伝説となり、現在でも季節をとわず毎年遭難事故がおこるとてもデリケートな岩稜帯エリアである。

そこを、黎明期にして山の世界でもなにかと賛否の対象にあがる”トレイルランニング”(実際には、~風とつくが)のスタイルで挑み、ネット等で発信し日の目をみれば、波紋を起す可能性はある。

ただ、私は敢えてその「スタイル」と「発信」することに拘った。
というより、この登山の場合そのスタイルが一番安全で適切で自分のモノになっていると、数々の北ア1DAY登山経験から断言できたからだ。

また、重荷を背負って挑むことだけを信じて疑わない論評がまだまだ支配するこの業界において、条件によっては、軽荷でのこのスタイルの安全性ふくめた有益性と妙味を、実証とまではいかなくても、それとなく提案することはできるはずだ。

ロングTシャツに7部丈の機能性タイツに適時ヘルメット、そしてソフトシャンクの入ったビブラムソールのDYNAFITトレイルシューズ。

サロモンの13ℓザックには、ツェルトにジップロックで密閉して小さくしたダウンジャケットに上下レインウェアその他を。

あまりやることはないが、昨今の超機能的なトレイルラン用ザックは、外ポケットだけでじつは飲料2ℓ相当の収納が可能。そこに、週末登山をしてた頃とは似てて非なる、普段トレーニングをしている身体をもってして臨む北鎌尾根。

再三いうが、外見からは一体どれだけその内情が理解できるだろうか。便宜的にライト&ファストという言葉をつかうが、誤解のおおい新しいジャンルだけにどうしても発信する必要があった。

ちなみに「トレラン」という4文字は、山を走ることの代名詞であり、また利便性のある言葉だが、山の世界ではどちらかというと蔑視と誤解の対象になることもあり、軽い気持ちで使うことは控えている。

それもこれも市民権をもつようになってほしいと思うからこそである。
今回、自分自身、初めてのバリエーションルートである。

破線ルートのジャンダルムや、槍・穂高連峰の急峻な岩稜1DAYはすでにやっていたが、それとは登山道がないということで一線を画す。

可能な限りの準備をするべく、数週間前に表銀座を同ルートで貧乏沢入口まで試走した。
また、地図にラインを引くことはもちろん、各区間の予想タイムを設定し、沢や山小屋での補給のタイミング、いざというときの山小屋泊、エスケープルート、ヤマテンの気象情報入手に撮影アイテムの準備とイメトレふくめやれることはすべてやった。

くだんのスピード登山ならここまでやってないだろうか。
終わってみてやや心残りだったことは、いざというときの懸垂下降(急峻な崖などを、体をロープで確保しながら下降すること)用のロープやハーネス類は装備から外したことだ。

人工壁にてそれらのトレーニングはしてきたわけだが、経験者の助言や様々な情報を得るにつけ、ノーロープでいけると判断してのことだった。

パートナーや辿るルート(バリエーションなので毎回同じところを通るとは限らない)によるが、登攀器具は必要と思ったりもするが、軽量に拘る登山においては、悩ましいところである。

(vol.2はこちら)

 

 

コメントは受け付けていません。