【コラム】北アルプス常念岳厳冬期単独1FA~ “SHORT SKIMO”というNewモード vol.4/4最終回

快晴の常念岳山頂(2,857m)は、悲しいほどの静寂とAwesomeな景色を独り占め。ただ、気持ちはその好環境とは裏腹につねにびんびんと、ある種ストレスにも似た異様なテンションが半端ない。

しかしあれだ、ソロの山頂とは得てして地味なものよ……。

到達の喜びと”超緊張の瞬間”の先延ばしは20分にとどめ、ヘルメットを被り、ブーツのバックルを固定し、スキーを履いた。ショートSKIがこの壮大な景色のせいもあってか、とくに短く感じる。

自分自身、スキー歴9年、山スキー歴9年。北アルプスをはじめ、頚城山塊(くびきさんかい)や小谷山域、山岳スキーレースに里山と、幾度となく自らがやるこの緊張と興奮のスキードロップの瞬間には立ち会ってきた。

今回のその緊張と興奮のボルテージは、そのどれをも上回っていた、というよりも違っていた。もしかしたら、このSHORT SKIMOという自分で始めたスタイルでの北アルプス厳冬期ソロで、しかもこの山頂から尾根を滑降していくという前例がない(実際はあったとしても記録としては見つからない)ことへの、あの未知なる恐怖感。

それは、純白の雪面を、誰かがつけたであろうトレース(足跡)なしに、自らが未知なるルートを選びながらすすんでいくあの感じにも似ている。

いつか誰かが言った、「絵を描くなら、キャンバスをはみ出せ」という言葉が、45歳の自分を強烈に後押しする。

山頂から森林限界へとつづく街からもみえるあの美しいリッヂライン(尾根)は、降雪から数日間風に散々叩かれ、一部をのぞいてほとんどがいわゆるシマリ雪。春のザラメ雪ほどで好みではないが悪くない、滑れるはずだ…。

ええい、今夜も必ずウマイBEER飲んでやるぜ!

山頂から右へ切れ落ちる稜線と岩の間にある1m幅のトラックを、スルスルと真っすぐSKI DOWN。

1ターン目、2ターン目、よし悪くない!!

常念小屋との分岐から前常念岳へとつながる尾根に進路を変える。今回は、尾根から登り同尾根を滑る。いわゆる、”Climb up to a ridge and Ski down the ridge”という自分が提唱する”SHORT SKIMO”を代表する典型的スタイルだ。自分が登ってきたトレースを例外をのぞいて再びなぞる滑降なので、視界が良ければルートファインディングは難しくはない。

幅広のridgeや、すこし鋭いridge lineを街に向かって滑降する。冬はアイゼンでしか歩いたことのないこの尾根を、SHORT SKIで滑降する滑稽さ。ターンを刻むごとに高度をぐんぐん下げていくこのスキーの妙味。四季をとおして60回以上は登ってきたこのMt.Jonen-dakeでの初めての体験…。

緊張と興奮が綯い交ぜになった脳は、もう完全にトランス状態。さっきまでいた山頂が振り返るたびにどんどん遠くなっていく情景。

今夜はウマイBEER決定だ。

FOOOOOOOH!!

思わずでる雄叫び。

興奮状態の男が再び冷静さを取り戻したのは、往路の歩行で抜け落ちたポイントにて、再びこんどはスキーで落ちたことだ。貧祖な学習能力が露呈する瞬間である。

春によく滑る北側大斜面で一気に高度を落として、トラバースライドをすれば尾根の先でルートに復帰できるし、時間も短縮でき美しい滑降ラインとなる。しかし、この日は転倒のリスクを最大限に考慮し前常念の難しい岩稜直下からスキーを脱いで高度を落としていった。
(※訂正、じっさいは前常念直下からさらにその先のピークまでスキーは履いたまま)

しかしこいつがまたいやらしい。歩行してても足のすくむスティープ(急斜面)。スキーでも瞬間に2ターンするだけなのに、死の匂いが漂うのだ。

ウマイBEER…、いやいや今回は十分に飲めるはずだ、とエクストリームに後ろ髪を引かれる自分をいなす。

標高約2,200mの森林限界のボーダーまでは、再びスキーでの滑降で高度を下げた。まだまだ先は長いし標高もあるのに、このうえない安堵感だ。この先は、以前なんども徹底してヤラレた木立ちとアップダウンの”SKI殺し”の長いダウンヒルが待っているにもかかわらず。

ただもうそんなことはどうでも良く、ただただ順当に降りていける自信が、なぜだかあったようだった。

ヒールフリーでおもに滑降した。自撮りの動画みていても、なんというか粗野な滑りかた極まりないが(笑)、カッコ良く滑ることは、山でのSKIがもっと速く安全にできるようになってからのテーマだと思うし、そうなれば、

自然と身についてくることだとも…。

須砂渡の林道ゲートを夜中の2時6分に出発してから15h10min後、ショートスキーを背負ったブーツスタイルでゴールした。もちろん、いつもの「もう山は当分いい」の心境も充分にある。

なんて悦に入っていると、あらたなことが判明した。

じつはこのタイム、4年前にやった2013年の自分の13h25minとくらべても2h近く遅い。もちろん、雪が少ないのでその分迂回をする林道の多用やロスト、雪質やソロでのラッセル、そしてソロなのでペースがゆっくり(自分の場合)、また撮影の手間といったロスはあるが、いかがなものだろう?

さらにおおきな関心事はなんといっても下山タイムだ。

2013年は4h25minで、今回はなんと4h40minだと!?あの、スッコロビながら無残に降りてきたときよりも、

15分も遅いとは……。

嗚呼、SHORT SKIMO~(泣)

※この事実が判明したのはこれを書いている2018年2月のこと。
※また、この日は林道に雪がないので下山時もブーツで歩いたりしたことから、時間的な差異をくらべるのはすこしナンセンスでもある。

よし、今回もあの”心の技術”をつかってつぎへいくとする(笑)

とにかく、まだまだこのスタイルで行ってみたいセクシーなRIDGE LINEは、数多くあるのだ。

【おわりに】

最後まで読んでくださりありがとうございました。この”SHORT SKIMO”などと、自らが勝手にネーミングし独り滑り出してから早3シーズン目に入りました。

基本、尾根を登って尾根を滑ってくるこのスタイルは、雪崩リスクが低く、なおかつ長いスキーではなかなか滑らせてくれない、密集した木立ちをもわりと滑ることが出来るスタイルだとやるたびに実感してます。また、

テクニックをさらに磨けば、残雪期にスノーシューや冬靴でのみ行けるルートが、このスタイルでも行けるはずだと思ってます。いや、もはや残雪期という括りさえないのかもしれません。

SHORT SKIMOで、常念山脈縦走1DAY、東鎌尾根と槍沢経由の安曇野から槍ヶ岳1DAY、稜線の幕営を基点に、たくさんの尾根をラウンドトリップ……。

同じSKIでも長いものとはここまで行けるエリアやルートが違ってくるし、むしろ広がっていると言って良いでしょうか。

行ける山域やルートが増えたことは、本当に嬉しいことです。

いっぽうで、私の趣向する登山スタイルには1DAYが圧倒的におおいのですが、それは山岳スキーレースや記録的なアルパイン登山などによって進化した、軽量マテリアルのお陰でもあります。

わたしの認識では、常念岳厳冬期登山一つとっても、よほどの健脚や山スキー上級者という超例外を除いて、重荷と幕営の2DAYSが一般的です。もちろん、”うえ”で幕営するアルパイン上級者は敢えてそれを選択してるのですが、それでも厳冬期1DAYという選択肢が増えたことは、日本のアルプスにも登山スタイルが多様化してきた証左でもあると思うんですね。

わたしは飽き性なとこがあるので、それっていいなぁ~って思います(笑)

もちろんその裏で、スキー技術の研鑽、道具のチョイス、日頃のトレーニング、経験や知識にハートといったものがなくてはなりません。

そのうえで、雪山におけるボーダレスでミックスな登山スタイルでもあるこのSHORT SKIMO。今後さらに発展させつつ、業界において一つのアクセントにでもなれば光栄でございます。

暖かな2月の松本にて

田中 ゆうじん

(vol.3 はこちら)